「ドライポイント」という手法で繊細な描写の版画を制作している杉山英雄さんは、学生時代から水彩画や油絵を描き、大学卒業後に美術の教員になります。三十歳ぐらいまでは具象的な作品を手掛け、二科展に出品、入選するなど創作活動を続けていました。時代的にも抽象画が注目されていたため、沼津市で「グループ風土」という美術団体が結成されるとそこに参加します。しかし、積極的に発言できないなど、自身の方向を迷うような日々が続いていました。
この会には、当時、大活躍していた沼津市在住の版画家の山口源氏が参加していました。作品制作に対しての取り組み方などを優しく語っていただき、杉山さんは版画で抽象的な作品を創ることを決意します。山口氏は弟子をとることはしませんでしたが、会話の中から多くのことを学んだ杉山さんにとっては、今でも師のような存在です。その後、山口氏の作風から離れ、具象の世界に戻り、精緻な描写の作品が誕生、ドライポイントで独自の世界を築くようになりました。
教員時代に、週に一枚の絵を仕上げて来るという課題を生徒に与えていた杉山さん。その指導を受けた生徒は絵画に対して親しみを感じたはずです。現在は、作品制作をしながら、地域の文化活動を向上させるように様々な活動をしています。
陶芸家・鈴木秀昭さんは、繊細な工芸の技法を用いながらアートの世界を展開している作家です。アメリカの大学で社会学を学び、帰国後、自分に向き合う仕事に就きたいと模索しているときに陶芸家としての道を選び、石川県の九谷焼技術研修所で陶芸を学びます。
研修終了後に前衛的な陶芸に興味を持ち、アメリカの芸術大学院へ進み、アートとしての陶芸を学びました。在学中に日本を見つめ直したとき、縄文土器の自然の力強さに惹かれて粘土の紐によるシリーズを発表。その後、蜂の巣、木の年輪などの自然物の成型過程に注目し、壮大な作品が誕生しています。この縄文に向き合う時期は、自然とは対照的な色絵から遠ざかっていました。
帰国後、伊豆高原に窯を構え、オブジェだけではなく、実用的な器などにも作品の世界が広がりました。そこで、再び、作品の中に九谷焼の特徴ともいえる色絵を受け入れ、現在では縄文と色絵を組み合わせた独創的な作品を発表しています。「器の形をしたオブジェ」とよぶにふさわしい、実在する自然や情景を絵付けするのではなく、果てしなく広がる宇宙、神秘的な心象風景などが描かれています。金彩を含む多彩な色調、細密画のような繊細な筆致で表現されているデザインが確立しました。「実用的な器であっても、一つひとつは作品というイメージで、限られたスペースの中で自分の思いを表現している」と言う鈴木さん。素材を磁器にすることで、より繊細さを強調しています。見る人、使う人それぞれが想像力を広げて向き合いたい魅惑的な作品です。
浜田真理さんは独自の手法で作り出した紙素材を用いて、創造的な文字のようなものを刻む芸術家です。紙は支持体(土台)としての存在というよりも作品そのもの。長い年月をかけてこの手法を生み出しました。
通常、画家や書家はキャンバスや和紙などに作品を表現しますが、浜田さんの場合は、支持体(土台)となる紙が主役です。材料はパルプ紙。紙の繊維を砕いて、さまざまな色に染め、台の上にコテで塗っていきます。塗っては刻み、また重ねるという手法で表現します。
表現しているものは、篆書のようにも象形文字のようにも見えますが、それを読み解くよりも、そこに刻む過程で作者が語りかけていた思いに近づくことができれば、見る人も和みの時間を楽しむことができるでしょう。人々の日々の営み、歴史に残る大事件だけではなく、個人の生きている証など、身近なテーマを自分の文字で表現しています。
「絵を見ることが好きな母の影響で、幼い時から美術館に連れ行かれました。次第に自分も描きたくなり、時間があれば身近にあるチラシの裏にでも描いていました」。様々な絵画コンクールで受賞を重ね、中学からは絵画教室へ通い本格的なデッサンを学び、女子美術大学付属高校へ進学。大学ではプロダクトデザインを専攻します。絵を描くだけではなく、広くものを作るということに触れた四年間でした。東京芸術大学大学院美術研究科に進学し、紙を使う楽しさを経験したことが紙との出会いでした。以後、紙を自在に操って、現在の作風を確立、‘92年には文化庁買上優秀美術作品に選ばれ、緻密な技で作品を生み出しています。
凛とした気品を感じさせる磁器。その独特の世界を作り上げる小枝真人さんは、日本工芸会正会員として活躍し、数々の作品を発表しています。大学で専攻を決める前は、磁器に対して冷たいイメージを持っていたそうですが、そこに描くモチーフの表情によって、見る人に和みが伝わるような小枝ワールド的作風を確立しました。「くすっ」としてしまうような鳥や動物のしぐさや表情を卓越した筆致で表現しています。
豊かな自然のある伊豆に移り住んでからは、野鳥を描くことが多くなりました。擬人化するように、語りのある表情を描いているのです。京都・高山寺に伝わる墨絵の絵巻物『鳥獣人物戯画』(ちょうじゅうじんぶつぎが)を思わせる趣のある作風が特徴です。日常生活で感じたこと、伝えたいことを鳥の表情が語っています。見る人はその語りに耳を傾けたいものです。
「染付は過去の技術をそのまま伝承しているように思われますが、そこに現代の感覚を取り入れることで、自分らしい染付が表現できればよいと思います」と語る小枝さん。2011年にアメリカで陶芸に取り組む人々の自由な感覚を学び、外から日本の文化を見つめ直すことで改めて自身の染付に対しての方向が決まったそうです。例えば、「点」ひとつを染付で表現していても、その語りが伝わるような、オリジナリティが存在するような、そんな力強い作品が誕生するかもしれません。
「畑毛温泉大仙山の富士」
展 示 写 真 一 覧 | ||
タイトル | 場 所 |
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1 | 三津浜の富士 | 沼津市 三津 |
2 | 大瀬崎より富士を望む | 沼津市 大瀬崎 |
3 | 土肥金鉱山社宅 | 伊豆市 土肥 |
4 | 小下田の富士 | 伊豆市 小下田 |
5 | 伊豆西海岸 堂ヶ島 三四郎島 | 西伊豆町 仁科 |
6 | 堂ヶ島御乗浜 | 西伊豆町 仁科 |
7 | 西伊豆町 堂ヶ島 | 西伊豆町 仁科 |
8 | 下賀茂温泉の湯煙 | 南伊豆町 下賀茂温泉 |
9 | 蓑掛け岩 | 南伊豆町 大瀬 |
10 | 下賀茂の加畑賀茂神社 |
南伊豆町 下賀茂 |
11 | 下田公園からみた下田町 | 下田市 下田公園 |
12 | 下田港犬走島 | 下田市 馬場ヶ崎展望台 |
13 | 下田港 | 下田市 下田港 |
14 | 下田市街と下田港 | 下田市 |
15 | みかんの収穫 | 東伊豆町 稲取 |
16 | 片瀬温泉・磔の松 | 東伊豆町 片瀬 |
17 | 片瀬海岸を走る乗合いバス | 東伊豆町 片瀬 |
18 | 片瀬温泉 | 東伊豆町 片瀬 |
19 | 熱川温泉河口付近 | 東伊豆町 奈良本 |
20 | 魚見崎から見た熱海温泉街 | 熱海市 |
21 | 熱海梅園で記念撮影 | 熱海市 梅園町 |
22 | 河津峰温泉 | 河津町 峰温泉 |
23 | 下田への途峠より天城連山を望む | 河津町 天城峠 |
24 | 国立公園伊豆・湯ヶ島温泉霧の 天城路を八丁池へ |
伊豆市 湯ヶ島 |
25 | 伊豆のわさび田 | 伊豆市 湯ヶ島 |
26 | 修善寺温泉 | 伊豆市 修善寺 |
27 | 達磨山から見た富士 | 伊豆市 大沢 |
28 | 大仁の商店街(仲通) | 伊豆の国市 大仁 |
29 | 狩野川 | 伊豆の国市 大仁 |
30 | 城山と富士山 | 伊豆の国市 大仁 |
31 | 東洋醸造 力正宗工場(大仁) | 伊豆の国市 大仁 |
32 | 大仁全景 | 伊豆の国市 大仁 |
33 | 長岡温泉 | 伊豆の国市 長岡 |
34 | 伊豆長岡温泉街 | 伊豆の国市 長岡 |
35 | 守山から古奈温泉を望む | 伊豆の国市 守山 |
36 | 伊豆長岡 狩野川に掛る千歳橋 | 伊豆の国市 千歳橋 |
37 | 反射炉と韮山城址の富士 | 伊豆の国市 韮山 |
38 | 韮山 江川邸正面 | 伊豆の国市 韮山 |
39 | 畑毛温泉大仙山の富士 | 函南町 畑毛 |
40 | 畑毛温泉遠景 富士山を望む | 伊豆の国市 奈古谷 |
41 | 柏谷の横穴群 | 函南町 柏谷 |
42 | 箱根西麓から見た富士山 | 笹原新田 あるいは三ツ谷新田 |
43 | 大観山からの箱根芦ノ湖と富士 | 湯河原町 大観山 |
44 | 芦ノ湖 元箱根 | 箱根町 元箱根 |
45 | 芦ノ湖遊覧船乗場 | 箱根町 箱根 |
46 | 大涌谷より富士の大観 | 箱根町 大涌谷 |
写真提供/日本大学国際関係学部 |
生島賢・生島明水
硝子二人展
■開催日:2013年6月1日(土)~25日(火)
■時 間:10:00~18 : 00(最終日は17: 00)
■休館日:木曜日
■入場料:無料
二人だけの工房でそれぞれを助け合う時間、
個々の世界を表現する時間とリズムのある生活を
楽しんでいます。
2001年に賀茂村(現西伊豆町)にガラス工房・GORILLA GLASS GARAGE(ゴリラグラスガラージ)を設立した生島賢・明水(はるみ)さん夫妻は、自由な発想でそれぞれ趣の違うガラス作品の制作に取り組んでいます。西伊豆町宇久須地区はかつて賀茂村といい、古くは、ガラスの原料である珪石(けいせき)の採掘を行っていました。この地にガラス作家の定住を募る機会があり、生島夫妻も自然豊かな西伊豆の環境に魅せられて移住し、溶解炉のほかにキルン(電気炉)ワークのできる設備も備えた工房を構えました。吹きガラス作業ではお互いをアシストし合いながら、あうんの呼吸で制作を進めています。
賢さんは、溶けたガラスを使って制作していくホットワークの技術を得意とし、立体的な作品を生み出しています。「もの作りが好きで、特にガラスはすべての工程に自分が一貫して関わり、制作できるところが魅力です。ガラス制作は無駄のないプロセスの組み立てが必要で、デザイン、制作の過程などを入念に準備してから、計画的に作り始めます。常に新しい発見があり、新しいアイディアも生まれていくので、すべての作業が楽しいと感じています」。今回は、工房近くに生息する鷺シリーズの存在感のある作品も発表します。
幼少の頃から手仕事が好きという明水さんは、細かく切ったガラスを並べる手法に取り組んでいます。今回の展覧会では、並べたガラス片を電気炉(キルン)の中で溶着させる技法で制作した作品を多く発表します。「伊豆に移り住み、子供ができるなど、環境によって作品にも変化が出てきました。限りある時間の中で今の自分を表現する作品制作を楽しんでいます」。
工房では日常使いのガラス作品なども手掛けていますが、その基礎的な作業を土台として、ガラス作家としてのそれぞれの世界への挑戦が続いています。
杉山光子展
■開催日:2013年5月1日(水)~25日(土)
■時 間:10:00~18 : 00(最終日は17: 00)
■休館日:木曜日
■入場料:無料
木々に囲まれた庭で四季折々の草花を育て、自然の移ろいを感じながら創作を続けている杉山光子さん。油、水彩、アクリル、ペン、パステルなどを共生させ、独自の作風を確立し、屏風絵からタペストリー、額装など幅広く発表しています。
日常の中のさりげない発見を大切にしているので、毎日見ている庭にも新たな感動を感じ、その美の世界を作品に映し出しています。
花のもつ華やぎと出会った人々の物語を一枚の絵の中で形成している画風、重なり合う色や繊細な筆致が独特の世界を創り出しています。
若い頃から作品を描いていましたが、子育てが一区切りついてから本格的に絵筆を
持ち、個展を中心とした創作活動を開始。今回が21回目になります。
これからも出会いの瞬間を大切にして自分の感じた世界を描き続けたいと語ります。
ご主人・杉山明博さんは木工を通して木の奥深い魅力を表現している芸術家です。奥様の制作活動を温かく見守りながら、いちばんのファンであるご主人からのメッセージを紹介します。
「常に描き続けてきた創作現場の姿が目に浮かぶ。描くことが常住の生活だったと思う。描き続けるなかでしか発見・創造できない作品、テーマの数々だった。それをさらに熟成させ、いくつもの物語性のある作品を生んできた」
また、「いつだったか、線画の一作目ができたときは、大きな衝撃を受けた。それ以後、数十年描き続けて、新たなテーマと格闘してきた。その成果が杉山光子ならではの個性とでも呼べる世界を生んできた」と称します。
そして、「今後は、ゆっくりとしたリズムでまだ見ぬ可能性を一つ一つ発掘していって欲しい。また、新たな魅力が生まれることに期待したい」と、温かい言葉で結びます。
■開催日:2013年4月1日(月)~24日(水)
■時 間:10:00~18 : 00(最終日は17: 00)
■休館日:木曜日
■入場料:無料
作家在廊予定日:
初日、土・日曜日、最終日を予定しております。
息づく存在を描き続けている日本画家・土屋良夫さんは、大学、大学院で日本画を学び、卒業後は静岡市に居を構え、教師を勤めながら日展に出品していました。仕事柄、夜も休日も自由になる時間は限られるため、そのなかで可能な限りの時間を作り、自分の世界を描き続けました。退職の5年前に両親の住む下田へ移転。その両親を看取り、今は絵に向かう日々を過ごしています。
「子供の頃から動物が好きでした。学生時代に上野動物園で見た250キログラムのオスのゴリラ(ブルブル)に圧倒されたことが動物を描くきっかけとなり、やがて虜になっていきました」以後、動物園に自然と足を運ぶようになり、他の類人猿や巨大草食動物の迫力にも心奪われ描くようになります。
特に類人猿は表情や仕草が人に似ていたので、親近感をもち、観察しながら制作に取り入れることが多くなりました。「外観の魅力に加え、生命の鼓動に重きを置いています。しかし、形の奥に潜む本質はなかなか表現できずに手探り状態である」と語ります。
土屋さんは、教職に就くと同時に、高校の先輩でもある彫刻家の大村政夫氏の仲立ちで日本画家・加藤東一氏の門人となります。師の教えは、「絵は作者の遺言状。それなら、下手でもいいから本当のことを描くこと。ものの本質を描くこと」でした。昨秋に心筋梗塞を患い創作を断念した時期もありましたが、回復し、今回の初個展に向けて制作に励んでいます。
■開催日:2013年3月1日(金)~25日(月)
■時 間:10:00~18 : 00(最終日は17: 00)
■休館日:木曜日
■入場料:無料
作家在廊予定日:
初日、毎週日曜日、祝日、最終日を予定しております。
伝統的な漆芸の世界に、モダンで遊び心のある感覚のデザインを取り入れ、独自の作風を確立した山本進也さん。「特別な日の特別な器」ではなく、使い込むほどに味わいが深まる漆器の魅力を伝えています。漆器は、木を削り、刳り、形を整えて塗りで仕上げます。日本各地に伝わる漆器の多くは分業ですが、山本さんは、ひとりですべての工程に係り、個性豊かな作品を生み出しています。木の特性を見極め、自身の手の温もりを木に感じさせながら、実用的な器物に仕立て上げています。さらに、現代感覚を漂わせているのは、身近な題材に対しての巧みな構成力です。綺麗に並んだネギ、大根、葉物、蕪など、黒や朱の背景に映える描写が印象的。伝統的な技を受け継ぎながら、時代を反映した作風に定評があります。
東京藝術大学では、工芸科に入学、その後、ひとりでできる仕事をしたいと考えて、漆芸を学びます。大学院在学中に漆関係の仕事に係る機会があり、将来は漆を扱う方向へと考えるようになりました。卒業後は実家のある西伊豆に戻り、工房を構えて制作を始めます。モチーフとなっている野菜は実家の畑で採れたもの。それを、料理して、自身の器で食する楽しみがあるからこそ、新しい創作も生まれるのです。さらに、器の形を愛でる楽しみや、盛り付ける楽しみなどが「日常使いの芸術性」の創作を高めています。
漆絵椀 125×70mm
弁当箱 70×180×65mm
片口 140×95mm
■開催日:2013年2月1日(金)~25日(月)
■時 間:10:00~18 : 00(最終日は17: 00)
■休館日:木曜日
■入場料:無料
作家来場予定日:初日、毎週日曜日
■開催日:2013年1月7日(月)~25日(金)
■時 間:10:00~18 : 00(最終日は17: 00)
■休館日:木曜日
■入場料:無料
東京藝術大学で共に日本画を学んだ中畝常雄さん、治子さん夫妻。大学院は常雄さんは日本画科へ、治子さんは保存修復技術科へ進学。大学院2年生の時に結婚。結婚して8年後に子供が生まれ、学生時代を延長したそれまでの生活に大きな変化が生まれました。
子供の世話などで多忙な二人に日本画の奥深い魅力を知る機会が訪れます。宮城県松島にある瑞巌寺の襖絵を復元模写する事業に参加したのです。二人でやっと一人前でしたが、交代で模写の仕事と家事育児を担当するようにしていました。10年を超えるこの模写事業に参加できて、当時の画家の息吹に触れ、日本画の画材の魅力をより深く会得できたそうです。
模写の合間に、常雄さんは個展で作品を発表し、自分のスタイルを模索し始めました。治子さんは制作に励む夫を見ながら、「自分の絵を描くことを諦めかけていた」ときに、仲間からグループ展の誘いがあり、自分の絵を描く喜びと楽しさを思い出したそうです。この時から、借り物でない、自分が「心うごかされたもの」だけを描くスタイルを続けています。
中畝夫妻は、題材は違いますがそれぞれが心に響くものを日本画の手法で描いています。常雄さんは自然の風景が多く、その中に子供が登場します。自分が静岡県東部の自然の中で育った経験から生まれるのだそうです。治子さんは、母親になり3人の子供を育てた経験からでしょう。子どもの何げない仕草に魅せられた作品を描いているそうです。
1999年から各地で、二人展を開催しています。会場には中畝夫妻の穏やかな感性が漂います。