陶芸家・鈴木秀昭さんのさんしんギャラリー善では2回目の個展を開催します。鈴木さんはアメリカの大学で社会学を学び、卒業後に石川県で九谷焼の技術を習得。その後再渡米し、大学院で陶芸を専攻します。日本とアメリカで陶芸の技法や取り組み方を学び、帰国後は伊豆高原に工房を構え、陶芸家として活躍しています。
個展のタイトル『JOMON&IROE』は、『縄文』と『色絵』を表します。立体的な『縄文』と平面的な『色絵』のコラボレーション。「縄文も色絵も自分にとっての装飾」と位置付けている鈴木さんならではの作品展です。「大学院では、創作だけではなく、ものを作る意味や作り手の姿勢などを学び、考えるようになりました。その時、偶然見かけた縄文土器の写真に衝撃を受けたのです。縄文土器は紐によるレリーフ状の装飾が施された作品に見えました。縄文時代の人が何を考え、何のために作ったのか、という謎が沸き上がりました」
その『縄文』に対する思いは、現在も創作の根底にあり、素材を磁土に変えたり、九谷の『色絵』を施したりと独創的な作風に取り組んでいます。自然をそのまま表現していた縄文土器の原点から時を経て、現代の『縄文』と『色絵』、それぞれが重なり合った独自の世界をご覧ください。
日本独自の染織技法である糸目友禅染をデジタルと融合し、新たな芸術の世界を展開している
石井亨さんの作品展を開催します。表紙は石井亨の「見返り美人」図。江戸初期に菱川師宣が描いた「見返り美人」は、当時の最新ファッションスタイルとして注目されました。魅力的な女性の後ろ姿が印象的です。石井さんの「見返り美人」は、糸目友禅染の柔らかな線描写に明るい色調が相まって、時代感覚が伝わります。細部を観ると、模様の中には作者のメッセージも表現されており、アナログとデジタルの融合など、幅広い世界観を感じさせます。
アーティストとして活躍している石井さんですが、進路を決める頃は、ファッションデザイナーを目指していました。素材となる生地に注目し、大学で染織を学ぶことを選びます。染織には様々な技法があり、その中で糸目友禅染と出会い、約四百年の歴史をもつその自由闊達な表現力に魅了されます。糸目友禅染は、生地に模様を染める際に防染として糊置きをしてから色を挿していきます。
石井さんの手法は、伝統的な技法のニュアンスを生かしながら、色柄などは現代の様々な情報を取り入れてデジタル技術を駆使して表現しています。また、日々の暮らしや震災などで感じた現代社会のでき事などを反映した作品も発表。アナログとデジタル、過去と現代などを様々な対峙する情報で取り入れた作風を創り上げています。大らかな表現を通して、「現代における革新的な伝統工芸の価値を考察したい」という作者のメッセージを受け止めたいものです。
「近年、各地を訪れて様々な人や場所を撮影してきました。それらを改めて見返した際に、撮影中には意図していない《共通した情景》をとらえているように感じました」と語る、写真家鈴木竜一朗さんの作品展を開催します。
作品の撮影には、ピールアパートタイプ(引き剥がし式)のポラロイドカメラを用いています。それは、かつて、プロのカメラマンが撮影状態を現場で確認するために使用していたもので、その画像自体に価値が見出されることはありませんでした。このフィルムは、デジタルの発展により生産も減少し、現在ではとても貴重なフィルムになりました。鈴木さんが使用するのはフィルムの通常は破棄する部分です。それを特殊な技法でネガに変化させ、プリントするという手法で作品を生み出しています。いくつもの段階を経て、オリジナル作品が完成します。現在のデジタル画像を見慣れた方には絵画的な印象を受けるかもしれません。この技法ならではの優しい味わいを会場でご覧ください。
港町ブルース F150 2000年 油彩
よもやま 80×80×80㎝×3 2014年 アクリル・木
穏やかな日常を作品に込めて
さんしんギャラリー善では二回目となる、画家・横井山泰さんの作品展を開催します。作品に登場する人、動物、鳥などは、表情豊かで観る人の心が和みます。作品にはそれぞれコメントが添えられており、より親しみやすく楽しめます。
現代社会では、様々な方法で自身の意見をアピールする方法がありますが、横井山さんの作品はその先駆けともいえます。作者の観た情景の奥にあるストーリーを油彩やアクリルなどの手法で表現しているのです。今回出品する作品のひとつ「港町ブルース」(上)には何処とも知れぬ港町と、たくさんの人々が描かれています。画業は変遷し、次第に背景をあいまいにしていく手法になり、「ビアンブニュ」(パンフレットの表紙)のような作品が誕生しました。しかし、一見、単純に観える背景の底には、人や動物などが塗り込められており、物語が潜んでいます。片隅には横井山さんが隠れているかもしれません。
また、横井山さんは様々な表現方法も提案しています。「よもやま」(左)は大きなキューブを三段重ねています。それぞれを回すことで違う絵になる参加型の試みです。お面は鑑賞者が被って画面の前に立つことで「絵の中に入る」ための表現として人気があります。
お面(モカ) 25×25×18㎝ 2018年
※着用して撮影可能です。
繊細で凛とした雰囲気が漂う作風が魅力の吉田直嗣さんの個展を開催します。轆轤を自在に操り、独特の釉薬を用いて創り上げる数々の作品は、使い手が自在に楽しむことで、日常の様々なシーンで映えると定評があります。
吉田さんの人生を彩る出会い、まず初めは大学時代です。専攻は環境デザインでしたが、自身の目指すものは自分の手で形として完成させることだと自覚します。それがサークルで出会った陶芸でした。ひとり暮らしを始めた時期でもあり、自分の使いたい器を考えるきっかけにもなりました。卒業後、伊豆高原の陶芸教室で働きながら模索は続いていました。その後、折々に出会った方々との縁で白磁の第一人者である黒田泰蔵氏に師事する機会を得ます。多忙な日々で学んだ白磁の美しさ。大学時代に雑誌で見た憧れの作品の作者の元で多くのことを学ぶことができたのです。独立後は高度な技術を要する黒い釉薬に試行錯誤しながら取り組み、発表の場を求めていました。
その後、紅茶と器を楽しむ企画で紅茶には白磁が映えるという発見(出会い)があり、白磁のカップ&ソーサーも手掛けるようになりました。自身の創作性を追求し、完成した作品は黒と白が織りなす世界として確立しました。「形」を表現することが好きという選択から始まった作陶の日々ですが、人生の中で出会った人々との縁が現在に生きているといえます。磁器も陶器も扱う吉田さんは、シンプルななかに「美しい形」を追求した作品を発表しています。無駄を省き、そぎ落とされたフォルムは、無機質に見えることもありますが、手に取ると轆轤ならではの個性を感じることができます。
‘11生きる(部分) 80号
画歴48年の朝倉由美さんは、絵画指導をしながら公募展に出品し続けています。幼い頃から絵を描くことが好きで様々なものを描き、風景や人物、静物を描くときも、独特の感性を持ち合わせていたという朝倉さん。近年、描いている作品「生きる」シリーズの空気感漂うイメージの奥深くにある線と面の重なりには、人の体の息づく様子が秘められています。
「美大卒業後に裸婦を描くことで学んだことは大きく、現在も人体のフォルムや動きによる表現を大切にしています。人体のフォルムから湧き出る空気感、透明感の色彩の美しさ、ダイナミックな線と面の動き、脳裏の風景も入れつつ、作品全体の躍動感漂う流れや動きを追求し、制作しています」。
今回展示する2004年からテーマとして表現している「生きる」の作品には、常に人物が描かれています。「逆境や苦難のなか、葛藤を乗り越えて、どう生きるか、という思いを表現したい。さらに、これまで大勢の方と出会い、励ましをいただき、試行錯誤しながら続けることができたことへの自分の感謝の気持ちも込めています」。朝倉さんの描く「生きる」の世界を感じていただきたい作品展です。
(文/寺坂厚子)
大学で美術を専攻したのは、幼い頃に触れた親戚の染物工場での体験だったそうです。その影響で小・中学校では絵を描くことが好きになり、自由な発想の色彩感覚も覚えたようです。師に恵まれ、指導を受けながら創作していた日々。自分が教師となり、教え子にも恵まれ、今でも交流が続くほど、人との出会いを大切にしている太田さんです。
その後、19年携わった教師を辞め、静岡県出版文化会に転職し、教材を作る仕事をしながら、自由に絵を描く時間を得ることを選びました。さらに、すべての職を退いた後は、自宅近くにギャラリーを設立し、アトリエをもちました。今後は、まず、画集「太田昭の富士山の絵」を発行することが目標であり、「アトリエの天井、床、壁を富士山の絵で埋め尽くすことが夢」と語ります。
染織家の大野純子さんは、熱海市の網代湾を望む高台に工房を構え、草木の採取、糸の染色、さらに機に向かうなど、すべてをひとりで行う染織家です。自然な色調を生かした、洗練されたデザインの紬は、「自分が着てみたいデザインや色調が多くなります」という説明通り、現代感覚の配色でモダンな印象が魅力的です。日本各地には伝統的な織物がありますが、創作紬は作者の感性を表現した独創的な作風が特徴。無地感覚でありながら、微妙な色調の変化で表現する縞や格子などもオリジナリティあふれる作風です。今回は二重の布の表裏を入れ替えることで織り紋様を表す風通織の作品も発表します。高度な技法で織り上げた美しくモダンなきものです。
染織に関わるようになったのは、都内でOLとして働いていた時でした。「手仕事が好きで織物がしてみたい」という願いを叶えるために紹介されたのが、東京都八王子市の織物工房が主催していた織物教室でした。そこで中山壽次郎さんに師事。「機織りをするなら、本格的に学び、きものを織りたい」と、自身が強く望み、仕事をしながら教室に通い、様々な技法を学びました。手仕事が好きだったこともあり、機を買い、家で織ることを始め、様々な公募展に出品します。その後、織物に専念するために静岡県に移り住むことになり、現在の生活が始まりました。四季折々の自然の変化を身近に感じる環境は、織物作家にとっては理想的です。「色は思い通りにはいかない」と語る大野さん。その色を生かして織り上げた無地紬など、おしゃれ着としての紬の存在を高める作品も紹介します。
紬織着物 ノクターン(平織、経緯絣、染料/山櫨、臭木、小鮒草)