白く澄んだ磁器に、藍濃淡の描写が映える小枝真人さんの作品展を開催します。小枝さんの染付は、素材を生かした形の美と題材となる藍模様の絶妙なバランスが作品の魅力を高めています。「藍と白は、主役と脇役ではなく、5対5の存在と考えています」という主張。素材の白と模様の藍を巧みな技で調和させた空間を生かすデザインは、洗練された印象で、現代生活の中にも自然に溶け込みます。また、モチーフとなる自然の生き物たちが生き生きと表情豊かに表現され、語りかけてくるようなユーモラスな存在であることも魅力です。鳥、金魚、鯨など、自然の中で息づく生き物たちを愛情豊かに描いています。飛び出しそうな躍動感ある描写は、卓越した表現力ならではの技です。常にしなやかな描写で洗練された印象に仕上げる表現力と「濃(だ)み」という色の濃淡を表す手法の極意とも言えます。
小枝さんは、1999年に第46回日本伝統工芸展に初入選以来、用と美を念頭に、使う人の気持ちにより添う作品を発表しています。「染付は過去の技術をそのまま伝承しているように思われますが、そこに現代の感覚を取り入れることで、自分らしい染付が表現できればよいと思います。決め手は感と技。それを自分の中で常に一定にしたい」という信念の元で創作に取り組んでいます。日本工芸会正会員として活躍しながら、2019年春から愛知県立芸術大学准教授として指導者の立場でも陶芸に関わっています。2013年に続き2回目のさんしんギャラリー善での個展では、新たな題材として取り組んでいるモチーフが一堂に揃い、ハーモニーを奏でます。
現在、私がイギリスで取り組んでいるのは、「Climate Change Art」と呼ばれ、気候変動問題をアートを通して考える・知ってもらうというものです。気候変動の研究者と協働で作品を作ることもあります。気候変動の影響、特に、地球温暖化などは、他の災害に比べ、その被害や状況を視覚化しにくいと言われています。ただ、その影響はゆっくりと、静かに、でも深く、確実に私たちの環境を蝕んできました。
同じ様に、私の父も、長い間、がんや認知症に苦しみ、ゆっくりと色々なものを、失ってきました。楽しい思い出、大切にしていた犬、健康な体、家族の記憶。今回の作品は、失われていく自然と、現在、危篤となっている父を想い、制作しました。私たちは、残酷な災害や個人の経験の中にも、強い愛や美を感じることができます。そんな愛や美を感じていただければと思います。
繊細で美しく詩的な表現が魅力
インスタレーションや版画など、様々な表現方法を用いて創作に取り組んでいる山本美知子さんの作品展を開催します。
山本さんは、幼少期を日本で過ごし、その後、ニューヨーク州立大学を経て、ペンシルベニア美術アカデミー、ペンシルベニア大学などに在籍し、油絵、彫刻、版画などを学びました。現在はリーズ大学で研究しながら、ロンドンを拠点として活動しています。
日本を離れて故郷の自然美などを思う気持ちが増したと語る山本さん。現在の思いをインスタレーションや立体作品で表現します。見る者を包み込むような空間をお楽しみください。
写実と抽象を織り交ぜた、独自の世界を展開している渡辺有葵さんの作品展を開催します。絵画は作者の心を読み解く楽しみがあります。また、対面した時の直感で新しい世界に踏み込むことも可能です。渡辺さんの作品を通して心に響く時間を過ごしていただきたいものです。
「写実と抽象は水と油のようですが、混ぜると何か新しいものが生まれるような創作意欲が沸きました。色のエネルギーを表現することを考えると、どちらも区別する必要がないと感じています」という渡辺さん。作品に描かれている人物を通して、作者のストーリーを想像してはいかがでしょうか。油絵画家の赤堀尚氏やドイツ在住の画家・ダニエルリヒター氏の影響を受けたという渡辺さんは、生命力を感じさせる色彩で迫力のある作品を描いています。
「小さな感情の爆発を白日に仕掛けた花火のように表現したい」と語る渡辺さんは、音楽を聞きながらイメージした絵を描くことが好きで、DJの友人の奏でる音を聞きながら筆を動かすこともあるそうです。また、バンジージャンプを体験したとき、重力からの解放感を味わい、天地がない状態をイメージした作品が誕生したそうです。アクティブな日々の中から誕生した独自の視点が心地よい世界です。
多数の応募をいただいた
さんしんギャラリー善の夏の特別企画。
写真家の眞野 敦さんが撮影した
ポートレイト写真を展示します。
家族や友人との思い出のひとコマを
写真家の視線を通して捉えた一瞬からは、
様々なドラマが感じられます。
ぜひ、会場でご覧ください。
また、8月10日(土)には眞野 敦さんによる
イベント「スマホでインスタ映えする写真の撮り方教えます」も
開催いたします。
参加無料、申込不要で時間内であれば随時参加可能ですので
ぜひお越しください。
日々のこと(11月) 水彩ガッシュ、和紙 174×825mm 2019年
穏やかな感性で描く世界が魅力の好宮佐知子さんの作品展を開催します。表面的には透明感のある色調でありながら、幾重にも重なる色のハーモニーが美しい水彩画。現代的な配色を生かして描いた壁画など、光と影を巧みに操る独自の世界を確立しています。
好宮さんは、大学で油画科に入学します。「何を表現するか悩んだ時期がありました。心に感じた情景、記憶に残る情景を描いてみようと感じた瞬間から世界が広がりました」と語るように、心象風景ともいえる優しい表現が今も水彩で表現されています。
大学時代にイタリアで出会ったフレスコ壁画に魅了され、大学院では壁画を専攻します。その後、世界遺産ガッラ・プラチディア廟のモザイク保存修復活動へ参加する機会に恵まれました。現在は、壁画技法を学ぶなかで得た経験を生かして作品制作に取り組んでいます。
緻密な表現方法を取り入れる時代もありましたが、東京から三島に転居し、日々の暮らしで感じる豊かな自然、家族との時間などが加味され、大らかな新しい感覚の世界が描かれています。今回の個展では、フレスコ特有の美しい発色を生かした小作品も展示します。
ペーパーアーティストとして活躍している広井敏通さんの個展を開催します。広井さんの作品は、建築に用いるような緻密な設計図を元に制作されています。優しいイメージの作品もシャープなラインを追求している作品も、すべて完成予想図に沿って創り上げる職人技の仕事です。
かつて、映画「2001年宇宙の旅」から得た発想で創作した宇宙船は、白を基調とした研ぎ澄まされたフォルムが印象的で、素材が紙であることを感じさせない作品として話題になりました。「スケール感を表現するためには、細部までディテールにこだわり、完成度を高めることが重要」と語るように、以後も妥協を許さない姿勢で次々と作品を発表しています。
広井さんは、オリジナルの形を重要視するためイメージした形に到達するまで研究を重ねています。雑誌「ディノス」の表紙では、毎回、洗練された広井ワールドの作品が話題になりました。近年は、アニマルシリーズとして、空想の世界に存在する動物を愛らしく表現。動物の性格を考えながら、紙ならではの素材の温もりを感じさせる、子供も大人も楽しめる作品を発表しています。
一方で、空間をアートで彩る活動も行っています。伝統的な「美濃和紙のあかりアート展」では審査員で活躍。また、下田市で14年間続いた「風の花祭り」では、花の形をしたかざぐるまで会場を彩る企画を主宰してきました。鮮やかな配色のかざぐるまが風に揺れ、多くの人々の心を和ませていました。今回の個展では、今までの作品の紹介と共に「花のかざぐるまを作ろう」イベントも開催します。
インスタレーションという手法で作品を発表しているナガクボケンジさん。2012年に続き、さんしんギャラリー善では2回目の個展を開催します。会場を埋め尽くす主役は桂やヒバの木を用いて作った10センチ角の白い小さな台座。何度も白い色を重ね塗りした美しい小箱です。その台座の内部をくりぬいて時計のムーブメントを設置します。その台座には小さな葉、枝、石など、ナガクボさんが愛おしむ品々が装飾されています。前回は、規則正しい配置の展示でしたが、最近は、ランダムな並べ方であっても主張が伝わると感じているそうです。
ナガクボさんは、お父様の仕事の関係で小学校時代に駿東郡清水町湯川に移転しました。慣れない土地で過ごした日々。友人と遊んだことよりも湯川の地でひとり過ごした思い出が残っているそうです。今回は、その思い出の地から採取した品で彩りますが、自然のなかで過ごした思い出というよりも、そこに居たという自分の存在を確かめるために湯川の品々を選びました。
伊東市在住の鍛金家、仲村渉さんの個展を開催します。
鍛金とは、金属を熱し、ハンマーで叩きながら成形する作業です。その歴史は古く、世界中の様々な地で金属を加工して、装飾品や武器などが作られていました。日本では、弥生時代に大陸から伝わった金属文化にその起源を遡ることができます。仏教美術品の製作などに用いられたことから、技術的な発展を遂げ、多種多様な技巧を施す作家の存在も確立してきました。薄い一枚の金属を叩いて表現する作業、現在では、工芸品としても確立されています。
仲村さんの作品は、約1ミリの銅版を鉄のハンマーで叩いて写真のようななめらかな表情に仕上げています。ですので、それぞれの作品の中は空洞で、叩くとキーンという音が聞こえてきそうな繊細な仕上がりです。また、「夢みる種」は叩きながら具象的なモチーフを表面に装飾した高度な手法を用いて仕上げています。金属の持ち味を読み取りながら仕上げていく作業は、経験を経ることで作家ならではの豊かな個性を感じさせる作品となります。大学卒業後、会社員生活を経て、金属造形家の鬼頭正信氏と出会い、製作を手伝う日々から鍛金を学びました。徐々に公募展への出品を始め、第17回日本新工芸展、第29回日展に初入選します。その後、独立し、伊豆高原に工房を構えて作家としての活動を始めました。自然界から産出される金属を加工しているにもかかわらず、温もりのある優しい肌触りを感じさせる作風が魅力です。